プロジェクト紹介

鉄道新型車両導入プロジェクト

※この記事は、2015年1月に取材したものです。記事中の内容や社員の所属部署・役職は取材時のものです。

1.時代とともに走り続ける静岡清水線

明治、大正、昭和、平成と時代をつなぎ、この街とともに走り続ける静岡鉄道。長さ11kmで15の駅があり、コンパクトな路線ではありますが、日中約6分~7分間隔の地方鉄道としては高頻度で走る運行ダイヤで往復し、年間約1千万人のお客様にご利用いただいています。車両はそれぞれの時代とともに姿・形を変え、現在の静鉄オリジナル設計であるオールステンレス製の1000形が最初に導入されたのは、昭和48年4月でした。2両をつなげて1編成とする当社保有の全12編成が、置き換えられたのは、それから12年後の昭和60年。
「安全」を重視し事業継続するため、車両更新を計画する時期を迎えていました。

2.プロジェクトのはじまり

1000形導入から40年を迎えようとした平成22年。鉄道部として、車両の老朽化が危惧され、「輸送の安全」を確保するために、車両更新が必要ではないかとの気運が高まりました。そこで、まず技術部門が中心となり、現在の車両状態を把握するところからプロジェクトは始まりました。そして、議論を重ね会社として車両を新しくするという経営判断に至っていきました。

3.車両更新計画の概要

全12編成を8年かけて入れ替えることとした計画は、単なる老朽化対策ということではなく、これから数十年先の将来を見据え、お客様にとってより魅力的で、地域にさらなる賑わいを創出できる新型車両をつくろうということを基本的な考え方としました。また、当社そして静鉄グループの起源である鉄道事業における約40年ぶりの歴史的プロジェクトであり、新静岡再開発に続く“街をつくるプロジェクト”と位置づけ、取り組みを進めることとしました。

新型車両導入の目的

「都会的なデザインに一新し、より魅力的な街づくりに貢献すること」

形式名「A3000形」

車両の形式名には3つの「A」の意味が込められています。

Activate(活性化する)
さらなる賑わいを創出し、沿線をはじめとする静岡・清水エリアを活性化する
Amuse(楽しませる)
乗ること、眺めることを通じて人を楽しませる
Axis(軸)
静岡・清水エリアを結び、これからの静岡市がめざすコンパクトシティの軸となる

新型車両の主な特徴

◆ 都会的で親しみやすい外観デザイン
◆ 広く、明るく、清潔感のある快適な内装デザイン
◆ さらなる安全性の向上
◆ 環境性能の向上

外観カラーリング

shizuoka rainbow trains

デザインコンセプト

shizuoka rainbow trains
~ひとつひとつ違う魅力をもち、集まるとさらに魅力的となる~

車両の魅力をさらに高めるため、11kmの往復路線で首都圏のように他の路線の乗り入れがないという点を活かし、複数のカラーで構成。全12編成のうち7編成は、静岡が誇るいろんな1番をモチーフに7つの色でカラーリングした「shizuoka rainbow trains(静岡レインボートレインズ)」としてデビューする。

静岡だけの特別な虹として
◆7つの色に包まれた車両が街の毎日を明るく鮮やかに彩ること
◆色には人を動かす力があり、静鉄電車は各色がもつエネルギーを街中に運ぶこと
◆一人ひとり違う魅力をもった人が集まることで、街が、地域がさらに魅力的となること
◆様々な事業を展開する静鉄グループの一社一社が魅力をもち、集まるとさらに魅力的となり、
 人と人、街と街をつなぐ架け橋となること
このように、地域を創る「人」と「街」の関係をこのコンセプトには込めています。

2019年度に会社創立100周年を迎えますが、この記念周年に7色のラインナップが完成する計画です。残る5編成は、現行車両と同様に銀色ベースの車両にする予定です。

3.開発担当者インタビュー

約40年ぶりの新型車両の導入は、8年にわたる大事業です。基盤を構築した技術系担当者、企画・工程管理などプロジェクトのタクトを振った担当者。現役社員の多くが、経験したことのないゼロ発進の本プロジェクト。第1号車両がお披露目を迎え、走り始めるまでと今後の展開について語ってもらいました。

中村 真也

静岡鉄道株式会社 鉄道部技術課長

中村 真也

Q1.プロジェクトでの役割は?

車両とそれに関わる設備や整備などのハード部分を担当しました。運転士と整備担当にヒアリングを重ね、現状を確認するところから始め、コンセプトを構築していきました。そのコンセプトを軸に、車体の安全性や高効率モーターなどの省エネ性能に関わる機器の選定、運転席の機器配置など随所にわたり、工場、運転所、運輸課、安全推進課の各担当者と詰めてきました。また、車両に大きく関わる変電所の改修などの大型投資が必要な関連の設備整備は、このプロジェクト前に進めました。

Q2.40年ぶりの事業。ノウハウのない中、どのようにして進めていきましたか?

正直なところ、発見と学びの連続でした。近年、新型車両を導入した経験がある鉄道会社へ訪問し、車両の基本仕様や車両メーカーの決め方やデザインの決定方法、車両の試験方法など、事細かくアドバイスをいただきました。また、40年前に現行車両の導入に携わったOBから話を聞いたり、当時の資料を隅々まで読み込みました。基本設計を進めていく中で、現役車両は経年数と比較すると、当時の最新技術を取り入れて製作されたことがわかり、「現役車両や先輩方、次世代に誇れる車両に!」という気概が高まりました。

Q3.苦労したことは?

根っからの技術職の私は、起案時、単に老朽化した車両を入れ替えるという感覚でいました。そのため、プロジェクトの壮大さと、私のその感覚との差を埋めるのが大変でした。プロジェクトの基本計画やコンセプトを作成するなど、経営会議用資料の作成に奮闘しました。次世代を担う車両であることや、新静岡再開発プロジェクトに続く大きな期待を寄せられているのを感じていました。そんな中、老朽化を危惧し、当初予定していた計画よりも1年前倒しで進めることが決定しました。予定していた行程の全てのスケジュールを少しずつ詰め、改めて計画を立て直しました。多くの方の協力がなければ不可能でした。

Q4.特に印象に残っていることは?

平成26年4月の経営会議における審議です。結果次第では「車両の運命が変わる」と思い、気持ちが高まりました。無事に承認を受け、「いよいよ始まる、ようやく前へ進めた」と思いました。そして、平成28年3月24日には出発式を迎えることが出来ました。車両が注目を集める喜びと、「お客様を快適にそして安全に運ぶ使命感」による緊張で、改めて身が引き締まりました。

Q5.新型車両を通じて、静岡の街に想うことは?

これからの静岡市を活性化する、シンボル的な存在になってほしいです。そのために市外・県外へどんどんアピールしてもらいたいです。静岡レインボートレインズが、「静岡にはカラフルな電車が走っている」、「静岡は良い電車を入れたね」など、ときめきや話題を呼びます。活気や賑わいにつながれば素敵ですね。

吉林 史仁

静岡鉄道株式会社
鉄道部安全推進課 副課長

吉林 史仁

Q1.プロジェクトでの役割は?

全体の取りまとめ役ですが、主にソフト部分を担いました。車両とそれに関わる設備や整備などのハードの部分は技術部門の中村が担当しました。会議のセッティング、各業者の窓口、車両デザインや工程管理に至るまで、社内外を問わず、調整役としてプロジェクト全体に関わりました。

Q2.一番大変だったことは?

車両のデザインです。特に外観デザインは、50パターン以上もメーカーに提案させてしまい、担当者に「もう勘弁してくださいよ」と言われてしまいました。しかし、そこは妥協できませんでした。年に1〜2編成のペースで導入していく8年計画の中で、平成31年には会社創立100周年を迎えます。そして「街にいろどりを。人にときめきを。」という指針に、新型車両が花を添える仕掛けを考えていたからです。そして、様々な人の力を借り辿り着いたものが、7色の静岡カラーをまとった「静岡レインボートレインズ」計画でした。富士山のクリアブルー、イチゴのパッションレッド…。一色一色が意味を持って順次登場し、アニバーサリーイヤーに静岡のいろんな1番をモチーフにした7色が出揃うというものです。経営会議では「こんなに派手でよいのか?」という意見もありましたが、社長が「それは吉林に任せればよい」とおっしゃってくださり、あの時はその一言で、ここに至るまでの過程を理解していただいたような気がして、本当に嬉しかったです。

Q3.外観デザインについて、全社員へアンケートを実施されたそうですね?

会社を挙げての歴史的事業なので、全社員の意見を聞いた方がよいと思いました。鉄道職だけでなく多様な意見を集約するためでもありますが、このメモリアルな節目に社員で良かったと思ってもらえるような、記憶に残るプロジェクトにしたいという想いからです。そこで、鉄道部以外の部署で、偏りが生じぬよう選出した10名でチームを編成しました。メンバーは20代~30代前半の男女社員で、新型車両と共に会社の将来を担う世代です。このチームで形やカラー、内装などの仕様に関わることを話し合いました。アンケートは外観、内装、カラーとそれぞれ実施しました。そこで得られた意見や傾向は、デザイン選定にあたり、効果的に活用することができました。

Q4.静岡レインボートレインズを通じて、静岡の街に想うことは?

「沿線に住んでいる」や「○○駅に住んでいる」といったことは、ひとつのステイタスだと思うんです。賑わいの場である新静岡セノバを「拠点」に、そこから新型車両が人と賑わいを運び、街の魅力が広がっていく。そうやってそれぞれのエリアが、活気づいていくことが必要ではないでしょうか?新型車両の導入が、街の賑わいづくりに一石を投じるものであればよいですね。

Q5.これまでのプロジェクトを振り返っての感想は?

プロジェクトに携わる話を聞いたとき、私は鉄道部に異動してきて1年でしたし、「自分でよいのか?」と思いました。しかし、このタイミングで鉄道部に在籍していなければ、40年振りの大プロジェクトにメインで関わることができなかったと考えると、非常に貴重な経験が得られたと思います。これまで所属した部署は、経営管理部、内部監査室、総務部、人事部とどれも管理系で社内業務が多く、外部と関わる機会が相対的に少なかったですが、このプロジェクトを通じて、さまざまな分野でそれぞれの最前線で活躍するプロフェッショナルな方々と仕事ができたことが、とても勉強になりました。本プロジェクトは現在進行形です。まだ振り返っていられないですね。

5.新型車両運行開始

平成28年3月24日、新たな歴史を刻んでいく静岡鉄道の新型車両A3000形が運行を開始いたしました。 街にいろどりを。人にときめきを。行こう。虹色の未来へ。 静岡鉄道、そして静鉄グループはこれからの時代も、これまでと変わることなく「安全第一」で、今後も、沿線価値の向上に取り組むことはもちろん、地域のさらなる活性化に貢献することを目指してまいります。 最後になりますが、引き続きみなさまからの暖かいご支援を賜りますようお願い申しあげます。